《ジム・ジャームッシュについて語る!周囲に感じさせる特別な気分あるいはムード〜映画監督が語る映画監督名鑑No,2〜》

 <ジム・ジャームッシュを語る上で、最も恐ろしいこと>

ジム・ジャームッシュを語る上で、最も恐ろしいこと、それは何も語れないことかもしれない。もちろん監督に直接会ったことはないので、かなりの妄想といくらかの理想が、ジム・ジャームッシュという虚像を作り出す。

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 「確かに雰囲気あるよね、でも私は◯◯君の方が好みだな」

この監督の映画をあえて言葉にするならば(考えただけでも恐ろしい作業だが、ここはおもいきって)、『雰囲気』という言葉がしっくりくる。学生のころクラスにいた、別に大袈裟なことはしていないのに独特な雰囲気を醸し出す、あの人のことを思い出してみてほしい。本人はまるでそのことを知らぬかのように、普通の生徒の中に紛れ込んでいる。いざ、その雰囲気というやつを、具体的に言語化しようとするがなかなか浮かんでこない。あれこれ言葉を足して自分を納得させるが、何か足りない。まるで抽象絵画を観るように捉えきれないまま、目はあの人を追っている。友達にそれを報告してみても、「確かに雰囲気あるよね、でも私は◯◯君の方が好みだな」と言われた挙句、恋愛感情にも似た切ない片思いが始まる。ぼくがときどき行う映画の捉え方として、擬人化することがよくある。まさしく、ジム・ジャームッシュの映画を擬人化するのであれば、確かに雰囲気のある彼、または彼女だった。

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《ある人が周囲に感じさせる特別な気分》あるいは《ムード》

それにしても、未だ何もジム・ジャームッシュについて語れていない。雰囲気というやつはややこしくて、腹立たしい。いつも煙を巻いて、気づいたらどこかに行ってしまう。ぼくは大概そういったとき辞書を引く。辞書に寄りかかり、心の拠り所にする。

 

ふんい‐き〔フンヰ‐〕【雰囲気】

1 天体、特に地球をとりまく空気。大気。

2 その場やそこにいる人たちが自然に作り出している気分。また、ある人が周囲に感

じさせる特別な気分。ムード。「家庭的な―の店」「職場の―を壊す」「―のある俳優」

出典|小学館 この辞書の凡例を見る

 

1はさておき、2の「ある人が周囲に感じさせる特別な気分」、「ムード」と言われも、余計にわからなくなってしまったではないか。その「ある人が周囲に感じさせる特別な気分」についてもっと深く知りたいのに、これでは辞書を引く辞書がほしいくらいだ。

<試してみる価値ありか?滑稽か?>

今度は、少し強引なアプローチといこう。雰囲気をある彼また、彼女らの半径1メートル以内に入りこみ(それはもう不法侵入のように)、思いっきり息を吸い込んで匂いを嗅ぐ。頭がクラクラしてくるのをなんとか抑えて、次の工程に移る。彼また、彼女らに決して気づかれないように、肩についた髪の毛を一本拝借する。それを丁寧にビニール袋に詰め、その場を何事もなかったように立ち去る。さて、ここからが実験が始まりである。家に帰るなり、髪の毛を机の上に置き、雰囲気とやらがあるのか、しばらくその周辺を観察する。髪の毛もまたその人の分身であるから、雰囲気が髪の毛にも宿ってもおかしくはない。さて、どうだろう、想像しみてほしい。机の上の髪の毛は「周囲に感じさせる特別な気分」、あるいは「ムード」を発しているのか。

<答えは藪の中とはいうけれど>

答えはジム・ジャームッシュの映画の中にある(そんな無責任なことを言っていいのかと気を揉むが)映画は作者の分身であることが多い。ぼくらは監督の髪の毛を眺めているのだ。今現在、架空世界に生きる人々が増える一方で、この世には触れて感じてみなければわからないことが圧倒的に多い。ジム・ジャームッシュの映画は、その一つなのかもしれない。嗚呼、恐れが現実になってしまったじゃないかと我にかえり、嘆いてみたところでもう遅い。やはり、ぼくはジム・ジャームッシュについて何も語れていなかった。

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ジム・ジャームッシュ(Jim Jarmusch,1953年1月22日生まれ)はアメリカ合衆国出身の映画監督、脚本家。

卒業製作であり処女作の『パーマネント・バケーション』で注目を集める。第二作『ストレンジャー・ザン・パラダイス』が、カンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞し、若手映画監督として注目を集める。その他の作品に『ミステリー・トレイン』、『デッドマン』、『コーヒー&シガレッツ』などがある。最新作、『Paterson』が公開待機中である。

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〜筆者プロフィール〜

内田俊太郎。1986年7月8日生まれ。映画監督。2014年に制作した吉村界人主演『ポルトレPORTRAIT』で監督・脚本を務め、劇場デビューを飾る。次回作は、浅草にある老舗パン屋ペリカンの魅力に迫った『ペリカン-世界一シンプルなパン屋(仮)』

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